特別企画 対談

vol.3 「地震と聴覚心理」

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***「伝わる」警報とは?*********** 

坂本 ところで、素人の質問ですいません。マグニチュードと震度の違いってなんですか?外国では“震度”って単位は使わないと聞いたんですが。

鳥海 マグニチュードはエネルギーの大きさです。震度は、地震の揺れの大きさですね。

坂本 マグニチュードが大きいからといって、大きな揺れがあるわけではないんですよね?

鳥海 そうです。距離が遠ければ小さい震度ですね。近ければ、マグニチュード6でも大きな震度、揺れになります。

坂本 そうなると、われわれ一般の人には震度が重要ですね。でも、外国であまり使われないのは・・・?

鳥海 多分、地震が起こらない(少ないから)からではないかな。また、地震のあるロサンゼルスやサンフランシスコは直下型の地震なんで、確実に大きな震度になります。だから、あまり震度で表現しないのかもしれません。

坂本 最近は、地震が起きると、どれくらいの震度か解る人が増えました。人間の心理的には、どれくらい揺れるかが非常に重要なわけですね。地震の研究は、世界的に見て日本は進んでいますか?

鳥海 中国は、近年、地震で、何十万人単位で死傷者を出してます。都市が一つ無くなってしまうくらいの規模の地震も。その割には、多くの人々は無頓着というか関心がないというか・・・

坂本 日本人は揺れに敏感なんですかね?

鳥海 地震を多く体験していますから。

坂本 東北の震災の時に感じたのは、地震の恐怖心って揺れではなく、音ではないのかな?と思ったんです。揺れ自体は、音がなかったらそんなに怖くはないと思うんですね。ガタガタ、ミシミシ音がするからから、恐怖心が増すように感じてますが、いかがですか?

鳥海 私は、地震のとき東大の柏キャンパスにいましたが、”ゴォゴォ”って、地鳴りを聞きました。確かにあの音を聞いた時には、何が起きるのか?と思いました。

坂本 私は、自宅で娘といたんです。お茶碗が割れた時に”パッリン”って音を聞いて、二人して恐怖心が思いっきり増しましたね。これは、いつもの地震ではなく、大変なんじゃないかなって思いました。

鳥海 確かに、”ミシミシ”って家で聞こえたら、家が潰れるって感じがしますね。恐怖心は増すかもしれませんね。

坂本 地震の直後に、ツイッターで「地震が怖い、怖い」って皆が書き込んでいたんですね。私は、「音の出るものを固定しましょう。恐怖感が減るから」って書き込んだら、一番リツイートされました。音って、ある意味、警告でもあるわけですね。急に何も聞こえないで、揺れて潰れちゃったら大変ですし。

鳥海 警告といえば地震警報、津波警報もどのように流せばいいのか問題があります。『津波が来るから気をつけて下さい。』『至急、避難して下さい。』それだけでは、避難してくれない。人によっては、「津波が来る?じゃ、見に行こう!」ってなって、実際に行ってしまい、被害に遭う人もいます。3.11の時も、「2mぐらいだったら見に行こう」みたいな感覚で行かれた方もいるわけです。台風の時も同じですね。

坂本 確かに、伝え方と言うのは、もう少し考えないといけないですね。

鳥海 そうです。これからの課題です。メディアの問題もありますが、今の警報だけでは足りないです。あとは、ヘリコプターで警告しますが、飛行自体が物凄い音ですから。動いている物体で、音を発しても掻き消されてしまいますから、伝わらないですね。これも課題です。

坂本 テレビなどのニュース番組でもそうですが、アナウンサーって冷静に『津波が来ます。ご注意下さい』って言いますよね。でも、実はそんな時ほど、「大変だー!逃げろー!」って冷静じゃなくしゃべった方が、事の重大さが伝わると思います。アナウンサーの性質上、それは駄目なのかもしれませんが。

鳥海 そうですね。津波の音を聞かせた方がいいかもしれない。

坂本 そうです。(本当に危険な時は)恐怖心をあおった方が良い様に思います。

鳥海 津波が来ると、船は陸に上がる、車は流れてくる、家が崩壊して瓦礫として流れる。溺れるというよりは、そういった物に当たって打撲したり、圧迫されて命を落とすケースが確実にあるわけですよ。

坂本 逃げなくていい時に、「来るぞ、来るぞ」って恐怖心を煽っておいて、本当に逃げなくてはいけない時に冷静に言われるって・・・大変なことになりますよね。

鳥海 情報の提示の仕方ですね。日常的に知らせることと、緊急時に知らせることが、異質であるということをわかってないですね。

坂本 そうですね。津波なんかも「5メートルの津波が来ます。ご注意下さい」って言われても、5メートルってどれくらい?って思います。でも、5メートルの津波が来るなら、海沿いの人は、とにかく逃げないといけない。それも、ある一定の高さ以上のところに。

鳥海 問題はそこで、海洋機構から地方自治体に伝えるのに、どう伝えればいいのか?ということです。30メートルの津波が来ますと伝えた方がいいのか?ビルの5階以上に避難して下さいと伝えた方がいいのか?どこどこのエリアまで浸水しますと伝えた方がいいのか?ただ言えるのは、その都度、リアルな、見たような事柄を伝える方が良いのではないかと思います。聴覚情報からの可視化が必要になって来るわけですね。

坂本 伝え方を考えると、つまり、音や声で可視化するには、その人の生活や人生のバックボーンに関する知識も必要になりますね。船がない町に住んでいる人に、「船が陸に上がるくらい凄い津波が来るぞ!」って言っても想像出来ないですね。

鳥海 「裏山に逃げろ!」って言っても、裏山がない地域もあるし、どの裏山に逃げていいのかわからない。そもそも、裏山で本当にいいのか?コンクリートの建物の5階以上の方が安全で解りやすいとか。そうなると、自治体ごとに伝え方を考えないといけないですね。

坂本 各自治体に防災マニュアルはあると思いますが伝え方まではマニュアル化されてないですかね。

鳥海 そこは、やってませんね。後は、自治体までは伝わっても、自治体から皆さんにどう伝えるかというのが、一番重要ですね。四国・紀伊半島あたりでは、地震が起きて津波がくれば10分が限界です。その10分の間で、自分がどう逃げて、どう守るか。それが最大優先であることを理解して貰う。「さぁ、危ないぞ!」となった時に、緊急性が隅々まで行き渡らないといけない。でも、これが一番難しい。地震は、最近、携帯電話でも知らされてますが、津波までは、しっかりとした情報が伝わっていってないのが現状です。

坂本 先生方が、しっかりと分析をして警報を出していても、一般の方々に上手く伝わらないというのは残念ですね。東北沖の時でも、しっかりと警鐘は出していたわけですが、伝わっていく間に、だんだん正確性が失われてしまう。

鳥海 本当。そうです。

坂本 でも、(地震)以前に、東北の方々とお話をしたときに、仙台の方々は、以前、大きな地震を経験しているから、準備は大丈夫って言ってたのが、すごく印象的です。

鳥海 確かに。1978年に宮城沖で地震があり、それで耐震基準が強化されました。また、1995年の淡路・阪神大震災で基準が上がって建物の耐震基準はずっと良くなったんです。実際、今回の地震でも建物はそれほど壊れませんでした。でも、津波は駄目でしたね。

坂本 建物といえば、都内は、高いブロック塀がかなりまだありますね。

鳥海 あれは、まずいですね。仙台の時はあれで人が亡くなってます。下敷きになってしまいますから。

坂本 私の家の近くにも、まだあるんですよ~!

鳥海 危ないですね。

坂本 どんなに技術が向上しても、本当の危険性はまだまだ潜んでいるということですね。本当は大事なことなのに、大事なことを説明するときほど、日本人は感情を抑えて説明しようとしますね。

鳥海 隠そうとしますね。

坂本 日本語って、もともとアクセントが弱く、原稿を棒読みしているように聞こえるので、冷静に喋られると大変さが伝わらないです。先生達も、感情で訴える専門家を準備した方がいいんではないですか?(笑)

鳥海 そうですね。でも、感情に訴えかけるのは、サイエンスとしては失格ですね(笑)

坂本 確かに、そうです(笑)ただ、もう少しオノマトペを使って説明してもいいのかな?とは思うんですね。普段説明しているときには、ワクワク、ガヤガヤってオノマトペを使って感情を伝えているのに肝心な説明に入ると、平板な文章で説明しようとします。

鳥海 確かに、急に冷静になりますね。

坂本 スティーブ・ジョブスは、プレゼンテーションするとき、オノマトペを上手に使っていたと言われてます。英語ってオノマトペが、日本語に比べて少ないですが、上手に取り入れて説明してます。彼は、プレゼンテーションが上手な経営者というイメージが植え付けられました。

坂本 原発事故の説明をしている人たちって、平然を装ってますが、内容からしたら、そうではなくて、早くあの場所から逃げてもらわなきゃいけないのに。

鳥海 まったく、その通りです。他人事のようでしたね。

坂本 当時のテレビ報道を見てると、逃げなくていいと思ってしまいますね。

鳥海 確かに報道のあり方で、気にならなくなるのはまずいですね。他の地区では再稼動の話もでて、再稼動してしまったわけですし。

坂本 冒頭、どこでも地震が起きてもおかしくないと言われてましたが、そういう意味でも?

鳥海 そうです。すでに何箇所か大きな地震が来ることは解っています。そうすると、津波も来るわけです。そんな中で再稼動は信じられないですね。

坂本 国や電力会社は、先生方の報告を見てないということなんでしょうか。(原発の)立地の時も含めて。

鳥海 国民の皆さんからは、いつも、そう言われ、思われてます。誤解をしていただきたくないのですが・・・私たちは、しっかりとデータを提出してます。(原発を)作っちゃいけないと、ずっと言ってきてます。

坂本 じゃ、出しても見てないんですか?

鳥海 そんなことはないですよ。しっかりとデータは見てる、はずです。

坂本 そうなんですか。んんんん。

鳥海 理解に苦しみますね。

坂本 私は、福島の原発の事故をみて専門家やエンジニアの悪いところが出たんではないのかと思うんです。

鳥海 どのへんが?

坂本 一旦、「安全だ」と言ってしまうと、それは安全でなければいけない。つまり、仮に後から、安全でないと気付いた時に一度安全だと言ってしまった以上、対策をするのは安全じゃないと言っているのと同じになってしまうので、出来なくなってしまったのではないのかなと・・・

鳥海 日本のサイエンスとエンジニアリングの悪いところですね。根拠があれば、自分のモデルは否定されなければいけないんですね。

坂本 私も、本当にそう思います。地震の研究に音や音の技術が使われていたり、皆さんに警報を伝える重要性。私共でも、まだまだ、お役に立てそうです。先生、今日は貴重なお話ありがとうございました。


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