特別企画 対談

vol.1 「マーケティング・商品企画と聴覚心理」

対談トップ

日本人の一様性 

坂本 どうして多様性がないいんですか?

笠原 文化。消費を含めて一様性が高いってことなんじゃないのかな。掃除機以外にも紙(ペーパー)なんてのもいい例だよね。日本の紙は世界一白くて綺麗だよ。

坂本 確かに白く綺麗です。

笠原 昔は紙は白くないと売れない、みたいなところがあったんだけど、エコが評価軸になると再生紙という話になって、白い紙は買わない。こぞって再生紙を買うみたいな。

坂本 そう言えば、再生のための原料が準備出来なくて、新品を再生紙って売っていた会社がありましたよね(笑) さんざん怒られちゃって。

笠原 そうそう。あの時は、評価軸が白くて綺麗から再生紙とかエコに変わったんだよね。

笠原 つまり、インターネットが栄える前から日本人って、しっかりとしたネットーワークを持っていたってこと。ネットワークがあるから、昔から一様性は高いって言えるよね。

坂本 一様性が高いということは、ある意味で・・・

笠原 そう!大きなターゲットをセグメンテーションすると1種類ということだね西洋あたりだとライフスタイルセグメンテーションと言うけど、日本では、年齢性別の差の方が大きいのかな。

坂本 日本では、年齢性別の差の方が大きい。つまり、ユーザーの、プロフィールである程度の消費行動が見えて来る?

笠原 日本の場合は消費の文化的遺伝子というか、構造が、おそらく、99%ぐらい同じ(笑)本来、ライフスタイルセグメンテーションって年齢性別が無関係だから意味があるんだけど。

坂本 だからといって日本人が駄目だというわけではないですよね。だったら日本向けのサービスや商品を開発することも重要だということのように思いますが。

笠原 日本向けに開発している商品もあって、成功している商品もある。ただし、グローバルには通用しないね。

坂本 携帯着信音サービスって、こぞって皆が使用しましたよね。あれも、おそらく日本向けの商品サービスで成功した事例だと思うんですが。

笠原 そうだね。

坂本 でも、iPhoneが出てきたら、ガラ携やめて、iPhoneを初めとするスマートフォンに皆が向きましたよね。iPhoneって、確か自分の好きな音を着信音にするのが大変で、ほとんどの人が、工場出荷時のまま使っていた。今もかな?でも、その大半の人は、昔、着信音を1週間に1回とか変えていたんですよ。

笠原 一様性が高いということは、グローバル社会の中で日本が問題児になっちゃたんだよね。

坂本 確かに。

笠原 そこそこ日本市場が大きいからね。これが、韓国とか台湾だと、そうはならないよね。

坂本 それは、マーケットが小さいから。

笠原 そう、台湾のメーカーは国内だけに目を向けていたら商売にならない。アメリカの市場を意識していたりするわけ。生産量や生産体制なんかも。

坂本 そうなると、単位が違ってきますね。

笠原 彼らは、アメリカをターゲットにしているから、逆に言うと大量生産する仕組みなんだよね。そんな数を聞くと、日本って生産ラインを作って、例えば筆記具で言うと、これは内職の人がいた時代もあったから、手作り工場だよね。

坂本 手作り工場ですか。

笠原 でも、良いところもあって、日本のボールペンは世界一。外国の人から見たら、車に例えるならF1カークラスだよね。

坂本 F1カークラスですか~?

笠原 アフリカ行く時はペンを持っていくと良いらしいよ。タクシーの運転手さんは、『Japanese Pen Please』って言ってくるらしい。あげると良く動いてくれるらしいよ。日本人って外国の筆記具なんか、書けなくても文句言わないでしょ。でも、日本のメーカーが書けないもの売ったら大変だよ。書けるだけではなく、細かな文字も綺麗に書けるし、日本製は。

坂本 確かにそうですね。

笠原 日本の筆記具の世界ってガラパゴスだよ。でも作る技術においてはまだまだ、世界一だよ。これから、どうしていけばいいのか?

坂本 私達はこれからどうしたら良いですかね。

笠原 日本の市場を一つととらえた、製品・生産体系になる考え。もう一つは、世界を相手にして世界共通の商品の開発かな。

笠原 高級車なんかを例にとれば国内では100台。全世界でも10,000台しか売らないとか。国内では売らないけど、ある文化圏だけに特化した商品を開発していくとか。

坂本 なるほど。

笠原 高い技術があるんだから色々なことには対応していけるよね。日本だって、1億まではいかないけど何千万人というマーケットはあるし。

坂本 そこなんです。マスコミなんかは直ぐに、日本にマーケットがないから海外に出ろって言います。目の前に、世界屈指の生活水準を持ったマーケットがありますよねぇ?

笠原 ただ、現実的には、消費国として、フロー社会からストックの世界になってきた。一時期ヨーロッパがそうだったように。そこは見なくてはいけないね。

坂本 ストックの社会と言うと?

笠原 お金はあるけど、将来が不安で、ほそぼそと。そんな思いが強いと、なかなか消費にまわらないね。

坂本 そうなると、短いスパンで開発し、市場に投入しても商品を買って貰えないということですか?

笠原 そんなことない。 超単品生産ができる。日本は一品生産が出来る技術を持った国。全部仕様変えても作れる。コストも上げないで。もちろん世界屈指の技術で。つまり、国内向けサービスは、マスで作っていくのではなくオーダー製にしていくわけ。

坂本 オーダーメイド!

笠原 オーダーメイド型の商品開発だね。それ以上に、事細かにお客様の要望を聞いて商品を開発していく、コンシェルジュ型の商品開発だね。これからは。

坂本 確かに、顧客のニーズを聞くって言って、メーカーはなかなか聞いてないですよ。逆に、聞きまくって、それを完全に反映させてしまう商品開発!

笠原 そもそも、お客さんからの声ってアイデアかクレーム程度にしか思ってないよね。

坂本 でも、コンシェルジュ型だと、お客様の要望をうまく汲み取れないとまずいですよね。

笠原 そうなの、お客様の要望をうまく汲み取れないとまずいね。MONO消しゴムの改良をした時を例にとってみると大体、メーカーは社内評価ってのがあるよね。

坂本 ありますね。社内評価軸。

笠原 仮に消しゴムの評価軸が、滑らか度、だとするよね。社内ではそれを数値化していくわけ。でも、お客様は滑らか度、なんて測定器を持ってないからアンケートとっても、あと幾つ滑らか度を上げろとか下げろとかは言ってくれない

坂本 当たり前ですね(笑)

笠原 アンケートで理想の消しゴムって聞くとゴシゴシ ゴリゴリ ザラザラ キコキコ は嫌だ理想の消しゴムは、 サラサラ、 スラスラ シッカリ(オノマトペ的)何かがコメントとして出てくるわけ。

坂本 何となくイメージわきますね(笑)

笠原 消しゴムは、紙にくっついて、ひっぱがす。メカニズムから言うとギュ→サァ→ギュ→バリって感じかな

坂本 お客様が、サラサラ(擦るみたいな)を希望するってことは

笠原 そう、滑らか度が幾つかというよりは、消したときにサラサラと消せれば紙がグチャグチャにならない。っていうことなんだと思う。多分。そう感覚。心地なんだね。

笠原 もう一つはマーカーの例ね。紙を擦る音というのが表現が正しいのかな。書くときに聞こえる音。

笠原 昔は、芯がフェルトで出来ていて、崩れるから嫌だというお客様からの要望があった。当時、芯をアクリルベースにしたら、ペン先がくずれないからこれでいいんだ!と思ってたら。今度は「音が違う」って言う人が増えたの。

坂本 確かにフェルトはキュュウっアクリルは、カシャカシャって感じですかね。

笠原 メーカーは、ペン先がくずれないように改善したから良いと思っていても、ユーザーは、新商品を納得してくれない。開発して、ペン先が崩れないようにしたんだけどユーザーの牙城は崩せない訳。

坂本 それは多分、「その音が嫌か?」と聞かないといけない?

笠原 そう、仮説の問題なんだよね。

坂本 お客様は、聞かないことには何も言ってくれない。答えは言ってくれない。

笠原 だから、聞き方をアバウトにすると、逆に色々言ってくれるんだよね。その中に、キュュウとかキュキュからカシャカシャ、キーキーキーになる感じが嫌だって回答があれば見えてくる。具体的に、「この音が駄目なんですか?」と聞くと、なかなか答えてくれない。

坂本 よっぽど、ひどい音とかだったら、お客さんに言われる前にエンジニアが気付いて解決してくれますし。

笠原 筆記具の世界では相手が紙の場合スラスラ。サラサラは理想の音色なんだね。

坂本 でも消音が良いとされているのに、今度は逆のパターンもあるんですよ。

笠原 何々?

坂本 ハイブリット車です。

笠原 あぁ。

坂本 先生、気付きましたね?実は、車の世界では、ずっと騒音との戦いがあったわけです。音響の研究者の中には、車の出す音を消すことに命を懸けてきた人たちがいたわけです。でも、ハイブリットは音がしない。そしたら、「危険だから音を付けろ」って要望が来る。今まで消音を研究してきた人にしたら、人生を否定されるような話ですよね。

笠原 車の音って邪魔だ邪魔だといわれてきたけど今度は、音を付けろ。しかも、必要な音を・・・

坂本 混沌・・・ですね(笑)

笠原 今までは必要なものを追加してくるのがユーザーニーズだと考えてきたから、車だけではなく、みんな過剰スペックになっているよね。

坂本 そうですね。

坂本 ユーザーにこれ必要ですか?と聞いたら、大体の人はとりあえず必要ですって答えますね。”とりあえず必要”は”とりあえず必要ない”と同じなのに。

笠原 そうなると、商品から余計なものを排除する作業が大変なわけ。基本、シンプルな商品を日本のメーカーは作ったことがないから。

坂本 どれを外して良いのか分からない。間違ったら、必要なものまで外してしまう。今回の車の音は外したわけではないけれども、おそらく、消音設計を意識しすぎた為に、音が外れてしまったようなものですよね。

笠原 そうすると、今度は規格を作ったりするわけだよ。本来、民間を守るためにあるはずの規格が、どこかで企業を、がんじ搦めにしてしまう。最後は、ユーザーが選択できる幅が制限されてしまったりするんだね。