特別企画 対談

vol.1 「マーケティング・商品企画と聴覚心理」

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坂本 それでは、宜しくお願い致します。

笠原 宜しくお願い致します。その前に、出版おめでとうございます。

坂本 ありがとうございます。第1回ゲストは笠原耕三さんです。まずは、笠原先生のプロフィールをお聞かせ下さい。

笠原 私は、商品企画コンサルタントとして、商品やサービスの企画をお手伝いしております。

坂本 プランナーの育成にも力を注がれていると聞きましたが?

笠原 日本工業大学のMOT(専門職大学院)で授業を持ったり、マーケティング共創協会で講演や講師をして後輩に指導しています。トンボ鉛筆で筆記具の商品企画をしておりました。そこで独自に開発した商品企画方法なども教えています。

坂本 私もそこで教わった一人ですね。ですので、いつもどおり、先生って呼びますので・・・

笠原 いいよ・・・

笠原

笠原 耕三
日本工業大学大学院MOT客員教授
(有)福田アドバンス経営
一般社団法人 マーケティング共創協会 専務理事

坂本 それでは、お話に入って行きたいのですが・・・

笠原 今日の対談のテーマは?(笑)

坂本 「マーケティング・商品企画と聴覚心理」という感じで・・・(笑)

現在の日本市場について 

坂本 まず、はじめに日本の市場についてどう思われますか。

笠原 企業の投資は、M&Aが中心で、新事業、新商品開発に比重は置いてないと感じるね。唯一、食品会社はそれなりに新商品開発には力を注いでいると思うね。

坂本 やはり、今の時代、商品開発とかではなくM&Aとかに行くのは仕方ないですかねぇ?

笠原 確かにそれもあるけど、日本のマーケティングは昔から保守的。安定的と言うか。ちょっと何かを付け加えるといった方法が多く取られてきているよ。

坂本 もうちょっと具体的に言うと?

笠原 ニーズ発想なのか?シーズ発想なのか?既存ビジネス発想なのか?新規ビジネス発想なのかにもよるんだけれども・・・あとは、企業発想なのか、ユーザー発想なのか?

笠原 どちらかと言うと、前者の発想(企業発想)が、よく選択されてきた。これは、今も昔もあまり変わらないね。

坂本 確かに・・・顧客主義、ユーザー主義と口では言いつつ、日本企業は、実際には、その発想を取り入れられない。何が原因だと思いますか?

笠原 それはビジネスモデルを輸入してきたからだね。

坂本 ビジネスモデルを輸入ですか?

笠原 ビジネスモデル。製造のあり方も含めて。日本が未成熟な時期に入ってきたから、タイミングが良かったと言えばよかったのかな。基本の部分は取り入れて、そこに改善というか、技術を足して行くみたいな方法が取られてきた。

坂本 確かに、事業というか、日本の商品ってそんな感じがしますね。先生のご経験で何かありますか?

笠原 ボールペンかな?ボールペンはハンガリー人が発明したのかな?それがアメリカで発達して、日本に入ってきた。日本で中性ボールペン(ジェルペン)が生まれて。書き味の良いというか、滑らかなペンが生まれたのかな。もちろん、そこにはインクや技術の進歩といった要素もあるけど・・・

工場の量産化 

坂本 今も似たようなことが起きていませんか?輸入モデル。例えば、スマートフォン。iPhoneが入ってきて、国内メーカーが真似て、Androidで開発してみたいな。でも、上手くいかない。輸入モデルが今の時代に通用しない理由って何ですか?

笠原 スピードの問題だね。物って、何を作るか?どう作るか?があるよね。どう作るか、ってのは、昔、手強かった

坂本 手強かったと言うと?

笠原 どう作るか。これはQCDだよ。いかに早く、品質が良く、安定して安く仕上げるか。当たり前だけど、他方をとれば他方が上手くいかなくなる。障害は出てくるわけだよね。それ以外にも、どれくらい作れるかという問題もでてくるわけ。

笠原 昔は、機械の自動化で、物を量産出来たけど、工場の自動化、量産は出来なかったわけ。いまや工場も量産できるわけだよね。

坂本 工場の量産ができる?

笠原 生産方法が決まれば、日本でなくても、中国や台湾でその生産方法ができる機械を持っている工場があれば、そのまま生産できるわけだよね。だから、これは売れると思うと、世界中のメーカーが一斉に作れるわけ。世界中に、同じ物を作れる工場ができちゃう。

坂本 確かに。

坂本

坂本 真一
オトデザイナーズ代表取締役 工学博士 「伝わる」技術 著者
2012年任天堂から発売された、Wiiソフト「キキトリック」を共同開発

笠原 昔は職人気質というか職人肌みたいな工場長がいて、それがノウハウとしてあったのだけど、いまは、機械の精度が良くなってきたのもあるけど、それ自体を動かすのもシステム化されてきているから、工場の量産ができるわけだよ。

坂本 そうすると、一気に良いと思った商品が量産され、その商品は世界のシェアを取ってしまう。

笠原 そうそう。気付いたと思うけど、その自動化システムを作っているのって、日本人だったりするわけ。それを海外に売っていたりする

坂本 それって、輸入モデルといえば輸入モデルだけど、逆に自分達の首を絞めてしまってもいますね。

笠原 日本人も頭では分かっているのだけど、日本人の好み?と言うか癖?というか、人が良いというか・・・

坂本 そうなんですかね・・・(笑う)

笠原 こんな話があるよね。NHKで放送された、選択の科学って知ってる?本も出版されてて、マーケッターは必読なんだけど。

坂本 すいません、読んでないです・・・

笠原 アメリカ人は選択・選択・選択・・・自分で選ぶことが人生。日本人は、定番の中から選択する人生だっていうんだよね。

坂本 そうですね。”選択”というのと”選択肢”は違いますね。日本人はどちらかというと与えられた選択肢の中から答えを選んでいるから、結果、自動化システムも輸出してしまったんですかね。

後発激化 

坂本 ちょっと話がそれますがアメリカ人の選択という言葉がでてきたので、私が感じているアメリカ。ヨーロッパを含めてなんですが・・・

笠原 なになに?

坂本 海外って、電車やバスの表示が不親切すぎませんか?逆に日本は、親切すぎるというか。

坂本 海外は、選択ではないですが、どこか行きたいなら自分で調べろみたいな感じ。日本だと、必ず路線図があって、目的地までのルートが、はっきり分かる。本来、行き方は色々あって良いのに。

笠原 それは、無意識で選ばされてると言えるね。でも、選ぶエネルギーを使わないのにはいいのかもしれない。エネルギー、他に使えるし(笑)

坂本 路線図だけではなく、駅の表示版も、次の電車の時刻や停車駅だけではなく次の次、次の次の次それ以降も表示されてますよね。何か1つ見落としちゃうと目的地にも着けないみたいなプレッシャーが(笑)海外だと空港くらいじゃないですか、あんなの。

笠原 視覚重視だね(笑)

坂本 昔は、電車って聴覚だった・・・ですよね?駅員さんがスピーカーからガーガー行き先とか言って、聞き逃したら乗れないみたいな。未だにイギリスなんかの構内放送はそんな感じですよね。

笠原 でも、お互いの了解がそこに成立していれば良いと思うね。時間通り目的地まで間違いなく行きたい人にとっての、仕組みとして、良ければいいのではないのかな。

坂本 この仕組みって日本だけのような気もするのですがこれはガラパゴスではない?

笠原 これは、ガラパゴスと言うよりは後発激化だね。

坂本 後発激化ですか?

笠原 昔日本は、表示が駄目だと言われていた。表示が小さいとか、アイコンがわからないとか。公共表示は海外に比べて遅れていると言われていた時期があって。だったら、やれば良い!、やりましょう!という発想になってしまったんだね。

坂本 つまり、後から追いつけ追い越せ。あれも、これもで結果的に過激になってしまった。

笠原 最近、シンガポールは、日本の教育を真似たと言われているよね。だから、小さい時から勉強して、子供はメガネをかける。

坂本 昔は、勉強する子=メガネみたいなイメージありましたね。

笠原 そもそも、日本の社会も後発激化のところがあって、今やっとオリジナリティを発揮できるポジションにいるんじゃないかな。また、オリジナリティを発揮しないといけないところに来ている。

坂本 その前は、まさに日本も後発激化だったわけですか?

笠原 そう。アメリカやヨーロッパのスタイルが良いことだってなると。例えば、カレーライスが入ってきた。カレーライスは良い事だってなって、そうなると皆一斉にカレーライスを食べるの。料理屋さんでも家庭でも。

坂本 全国で出されるようになるわけですね。

笠原 「それは良い物」だとなると、無批判でみんなが先進国の物を取り入れてしまったんだね。いまは、アジアが日本のやり方を真似してきているのかな。

日本発、世界へ 

坂本 そうは言っても、高度成長期には、ウォークマンや、先生が開発された修正テープがありましたね。日本発、世界へ、みたいなのが。ここ何年かはないですかね。ハイブリットが辛うじてですか?

笠原 出なくなっていると言うのが正しいのか。出ているのに気づかないのか、わからないね。

坂本 気づかなくなっている・・・。

笠原 当たり前と言えばあたり前のように感じちゃっているのじゃないのかな。そもそも、日本は独自の位置づけというものがあったと思う。

坂本 日本の位置づけ?

笠原 アメリカにおける日本の役割と言った方がいいのかな。アメリカの考えはどんどん先に行きたがるよね。

坂本 どう作るかは日本に任せればいい?

笠原 もうちょっと言うと良いものはドイツに作らせる。中くらいは日本みたいな。

坂本 良いものはドイツですか~(笑)

笠原 一時期から、われわれ(アメリカ)は、特許は取るが、物は作らないという考えに変わったね。それが最近では、機械工学は古いから、金融工学だとソフトウェアに行ったじゃない。その間でも他の国に、模倣はされながらも、もの作りは日本の役割ということがあったのだけど。デジタル化の流れの中で、さっきも話したけどノウハウが必要なくなってきちゃった。結局、もの作りって、機械だけではなくシステムも一緒に売っちゃうみたいな話をさっきしたけれども、それで日本は行き詰ってしまったんだね。そうすると商品の新開発にも繋がらず・・・。