特別企画 対談

vol.7 「サウンドサイネージと聴覚心理」

対談トップ

****今後のTLFの展開**** 

坂本 TLF、サウンドサイネージの今後の展開についてお教えいただけますか?

室井 源流に立ち帰ると、音声情報伝達のSN比を高くすることですね。

坂本 SN比について読者に分りやすくお話いただけますか?

室井 シグナル・ノイズ比ですね。伝えたい情報とそれ以外の雑音との比率です。伝達効率が良いということは、SN比が高いということですよね。意味情報がちゃんと伝わるということ。今は、広告や販促をメインに行っていますが、音声情報で何かを伝えたいということであれば全部成立する話しです。遠隔会議もそうですね。遠隔会議システムで一番問題になるのは、その部屋のエコー(反射音、残響音)を拾ってしまって、(それが)再生されると酷い音になるので、エコーキャンセラーを間に入れないと利用できないことです。

坂本 そうです。音響の専門家は知っていますが、そうでない方は知らないかもしれませんね。

室井 私達も遠隔会議用のマイクやスピーカーは販売していますが、TLFを用いることによって位相特性が単純になるので、エコーキャンセラーの処理が軽くなると思います。なおかつ、画面をプロジェクションして、画面の向こう側から音がでると、あたかも画面の向こう側から聞こえてくるので、人間の実生活の中の聞こえに近くなります。

坂本 リアリティが高くなりますね。

室井 リアリティが高くなると、若干情報が欠落していても補間し易くなります。一つは遠隔会議などの音声情報コミュニケーションに利用できると考えています。先ほど坂本さんがおっしゃっていた、大病院の呼び出しでも利用できそうです。

坂本 通信教育にもいいですね。最近は動画を見て教育をするって流行っていますが、直接、先生の講義を聞くのではなく、録画されたものを見るというのは、通常の講義を聞くよりも何倍も集中力を高めないと頭に入らないはずです。リアリティが高まると、情報が脳で補間されるので、もう少し楽に学習することができるかもしれませんね。

室井 バーチャルをいかにリアルに近づけるかという意味は、実生活で培ってきた経験値と照らし合わせて、伝えられる情報が正しいと認識させることですね。

坂本 TLFの構造を完全には理解していないので的外れなご質問になってしまうかもしれませんが、スピーカーですから・・・マイクにも出来るのですか?

室井 なります。指向性のコンデンサーマイクになります。

坂本 そうすると、一方通行ではなくて、1枚の紙というか布と、会話が出来るということですか?

室井 出来ます。

坂本 ドライブスルーのマイクなどに利用して貰いたいですね。ドライブスルー利用しますが、こちらも向こうも何を言っているか分からないですよね(笑)

室井 そうですね(笑)

坂本 結構大声で言わないと駄目で、ご高齢の方は特にイライラされるみたいです。(TLFが)マイクにもなれば、双方向の会話ができるようになるので、ドライブスルーのマイク以外にも色々とすばらしい商品が出来るんではないでしょうか?

室井 実はマイクのテストはしたことがあります。

ヤマハ室井様

坂本 普通のマイクで収録するのとは違いますか?

室井 全然違います。強い指向性マイクですから、正面の音しか録らないです。ただし、正面の音は距離が離れていても収録できます。

坂本 それはいいですね!

室井 横から入ってくる音は伝達の位相差がでるので、キャンセルされてしまいます。確かに用途は沢山ありそうです。

坂本 最初にこの商品を見たときに、マイクにならないのかな?と思ったんですよね。音響機器のマイクとスピーカーって、構造はほとんど同じですからね。

室井 同じですね。

坂本 信号の行く方向が違うだけですから。独居老人の安否確認にパソコンとインターネットを導入している地方があると聞きます。パソコンだと、なかなか操作ができないなどの問題もあるそうですが、TLFを用いて双方向の音声コミュニケーションシステムができると、社会的にも意義あるシステムが出来上がりそうですね。このスピーカーは高齢者の聞こえにはとても良いと思います。

室井 聴覚の基本特性を利用できるエリアであれば、どこでも利用できますね。ただ、そういうエリアがまだあまり開拓されていないです。産業的にも工学的にも、最初に発達した音声コミュニケーション技術って電話ですね。電話って遠隔地との音声コミュニケーションですよね。それと同じことを、もう少し電気的なシグナルを使わないで、音での伝達のSN比を上げてあげれば、双方の意思疎通がもっと楽にできると思います。

坂本 素晴らしいですね!

室井 まだそこまでは行き着いていませんが・・・TLFをスピーカーやマイクなどの機器として見るだけではなく、音声情報を伝達、受信するものとして思考のレイヤーを一つ上げてあげれば、色々と用途は考えられます。あれを単にスピーカーと考えてしまうと、音楽鳴らして大丈夫ですか?って話になって終わってしまいますね(笑)

坂本 考え方にもよりますが、技術的に、音響機器はここ20~30年進歩していないのではないかと思っています。24~25年前になるのかな。就職する時に、私の師匠の齋藤收三先生がおっしゃったのは「音響機器メーカーはやめておきなさい」って。「技術的にはこれから進歩しないよ。ある程度、行き着くところまでいっているから」っておっしゃっていたのを思い出します。今思うと、確かに技術的には変ってないですね。

室井 基本は変ってないですね。

坂本 デザインが良くなったり、小さくなったり、安価になったりということはありましたが、技術的には変っていない。そういう意味では、TLFスピーカーは色々なことに展開できる、久々に出てきた新しい音響機器ではないかと思います。

室井 私もそのつもりでやっていますが、その考え方は、なかなか取り上げていただけてないですね。99%がスピーカー=音楽再生ですから。

坂本 そうなると、迫力ある音出ますか?ってなってしまいますね(笑)まだまだ啓蒙活動が必要ですね。私たちが、せっせとブログを書いているのも、そんな意味(啓蒙活動)も含んでいます。

室井 産業的に、自動車業界で音響計測のハードやソフトが進歩しているのは、売上を作るため、価値を創造するための研究開発に密着するからですね。売上の取れないところでは、技術って、なかなか進歩しないですから。

坂本 そうだと思います。

室井 そういう意味では、狙ったところが正しかったか結果はこれからですが、広告や販促は与える情報でお金を取りますので、切り口としては良かったと思っています。もちろん難しいですが。

坂本 サウンドサイネージに関しては、オトデザイナーズの場合はハードではなくコンテンツを幾つか、ご用意して紹介したことありますが、(関連企業には)なかなか受け入れていただけないですね。

室井 一つはクライアントが理解しないものは扱い難いので、目新しさだけでは食いつかないですね。デジタルサイネージも、一時期の注目度からはかなり落ちています。

坂本 理由は何かお感じになりますか?

室井 一つはコスト的な問題ですね。デジタルサイネージもビジュアルなので、通り過ぎたら見えないですね。JRの東京駅や品川駅で行なわれているデジタルサイネージは、結局は多面展開で行なわれています。歩いている最中ずっと見えるという方法ですね。あそこまでやらないと見てくれないです。

坂本 あそこまで物量作戦が必要ですかね?

室井 現実的に色々やってみたそうですが、画面を進行方向に向けて多列に並べないと、訴求効果が少ないようです。

坂本 そうですか・・・

室井 実際に、あのスペースに広告を出して貰うとなると、訴求効果がないと広告スペースとしては売れないですね。試行錯誤して、効果のある今の形に落ち着いているということのようです。

坂本 デジタルサイネージだけでなく、ポスターでも広告から音が出れば、まずアテンションは引けるわけですね。いくら貼っても、アテンションが取れないから広告効果が出ないと考えれば、まずは音を出してアテンションを取ることを考える方が良いと思いますが・・・ただその時に”ガンガン”音を鳴らしていれば、アテンションは取れるけど、うるさいから嫌だってなって、人がそこを通らなくなります。さりげないコンテンツで、指向性の狭い範囲でしか聞こえなくするであるとか、オトデザイナーズで考えている周囲の音に混ぜ込んで、うるさく聞こえない音源にしてアテンションを引いて、視覚的にしっかりと伝えたいメッセージは伝える。そのような提案が受け入れられれば、あれほど多面展開しなくてもメッセージは伝えられると思います。

サイネージ

室井 展示会で実験しました。動く歩道の終着に(TLFスピーカーを)1枚セットして、30m手前からずっと聞こえるようにしました。動く歩道なので逃げられないんです。かといって轟音ではないので嫌がられることはない囁く程度の音量です。1枚セットするだけで、数十メートルカバーすることができます。ポスターだけでカバーしようとすると、今までは、何枚も置かなければいけないのが、1枚で出来るから良いのではないかと提案しました。

坂本 音の場合はポスターのように1箇所に複数が共存できないですからね。いっぺんに音がでると大変です。ただ、普通のスピーカーで30m先まで音を届けようとしたら大変ですね。

室井 はい。そうです。

坂本 以前、温泉施設の極楽湯で実験をしたことがあります。そこは、温泉が2階にあって階段を降りて左に曲がるとレストランと売店。右に曲がると出口になっている構造でした。お店としては、入浴後、少しでもレストランや売店にお客さんを誘導したいという思いがありご相談を持ちかけらました。そこで天井に、2m置きにスピーカーを並べて、川のせせらぎなどの音を連続的に流して、売店の方に音(川)が流れているようにしたんです。そうしたら誘導効果、ありましたよ!ただ、スピーカーを何個も準備しなければいけなかったので・・・当時、このスピーカーがあればお借りしたかったですね。今後、何か一緒に出来るかもしれませんね。それでは最後になりますが、読者へのコメントをお願い致します。

室井 はい。まずは音声情報伝達というレイヤーの一番上の部分を理解してもらいたいです。その産業応用の一つとして、今、サウンドサイネージを展開しています。サウンドサイネージは、聴覚を使って情報をしっかりと補間してあげ、気付かせてあげることが出来ますので、この聴覚の持つ本来の意味、機能を認知して貰えればと思っています。今回のこの対談を通じて、オトデザイナーズさんのメルマガ(オト・コラム)の読者、ブログ読者の方々には是非ともご理解いただければと思います。

坂本 室井様、本日はありがとうございました。

室井 ありがとうございました。

(完)

ヤマハ株式会社 サウンドサイネージ ホームページはこちらから