特別企画 対談

vol.2 「イノベーションと聴覚心理」

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イノベーションとマーケティング 

大島 イノベーションってそうですね。消費者は目の前に商品を提示されて始めて自分の欲しかったものが何だったのかが、分かる。昔のマーケティングの手法は、アンケートを取って、消費者がこういうのが欲しいと言って(それを)開発する。ただ、そういう時代は終わっているし、それが本当に有効だったのかも疑わしいと思いますよ。

坂本 目に見える場所に、イノベーションがなくなった。昔はゴロゴロあった。洗濯機がない時代は・・・

大島 洗濯機を作ればよかった!

坂本 ほうきで掃除している時期は、電気を入れて、ごみを吸ってくれるものでよかった。小回りが効かなくても。目に見えるところにイノベーションの種があったということですよね。

大島 そうですね。確かに今は、見つけるのが、非常に難しくなった。だからこそ、なおさらマーケッターの力が必要とされていて・・・スティーブ・ジョブスは、優れたマーケッターと言えますね。そこって、マニュアル文化では育ちにくくて、もう一度、好き勝手にやってもらうって文化が必要だと思うんです。

坂本 いま、マーケッターの力が必要ということでしたが、私達の考えもそうです。オトデザイナーズは聴覚が専門だから音や聴覚の技術を、いきなり、「取り入れませんか?」と言っているわけではなくマーケティングから入りますって、多くの場合、そういうご提案をします。

大島 なるほど。

坂本 世の中、音を全く出さない無音の機械やシステム、商品、サービスって無いんです。人が手にするものは、全て音が出るといっても良いくらい。そういう観点から行くと、どのような業種でも、(イノベーティブな)ご提案が出来るんです。

大島 音が出るって、あまりに当たり前だから・・・当たり前の物って、商品に落とし込むのはかなり難しいよね。

坂本 そうです。そうなるとエンジニアの発想だけではなく、マーケッターの力が必要です。私たちは、それこそ研究所ではないので、単に聴覚心理や音の技術導入を提案するだけではなく、(イノベーションのための)マーケティングから提案できる企業なんですっていうのが売りなんです(笑)

大島 それは・・・相手に通じてますか?

坂本 通じて・・・いると思うのですが・・・日本の場合、セクションが違うことが多いんです。要するに、マーケティングと開発の部署が違うんです。そうすると、企業ですから、予算の枠組みも違ったりすることも多いですよ(笑)出来る限りベストなご提案となると、調査をしてから、それに見合う技術や知見をご提供したいんですが、開発部門からのコンタクトですと、調査からやるというのは難しいです。

大島 両方、一緒にやるセクションがないんですかね?

坂本 大きな企業になれば、なるほど、役割分担されてますから。

大島 組織も硬直化してきているのでしょうね。

坂本 でも、チャレンジするだけの体力はあるわけですよね、大企業の場合は・・・

大島 またまた家電系の話で恐縮ですが、家電系の大手企業って、大変だ大変だ、業績が悪いと言われてきている会社も、実際には何とかなってますね。シャープはさすがに厳しいようですけど。そういう意味では本当の危機ではなかったのかもしれません。

坂本 だから、危機感が生まれていないんでしょうか?

大島 新しいことを真剣に開発しようとする姿勢がないでしょうか?CEOにすれば、(自分の任期中に)会社をおかしなことにはしたくないから、新しいことにチャレンジしたがらないですね。組織も変えたくない、やり方も変えたくない、当たるかどうか分からないものに手を染めたくない。

坂本 いままでの延長の開発で、会社は潰れていない。作ったものは、そこそこ売れてる。新しいことやって、面倒なことになった方が嫌ですもんね。

大島 それはあると思いますね。失敗すれば責任問題も追及されますから。

坂本 結局、どんな業界でも『音って差別化になります』と言っても担当者の方は賛同してくれますが、なかなか前に進まないですね。

大島 持って行く先が、色々な業種が駄目なら、視点を変えて色々な国の企業に持っていったらいかがですか?

坂本 そうですね。ただ、聴覚心理の場合、国や民族が変わると、音や聴覚の感じ方も違うので難しいところがあります。

大島 そんな大変ですか?

坂本 (例えば)言葉をとっても、英語に比べると日本語はイントネーションが弱いですね。

大島 日本語ってアクセントがなかったりしますね。

坂本 そうです。その分、ちょっとした言い方で、その人の感情を感じたりしません?伝える方は、ばれないように平然を装っているのに(笑)

大島 わかりますね。

坂本 声の周波数でいうと、ちょっとしか違わないですけど。

大島 日本人は、音に敏感。ヨーロッパは、どちらかと言うと音の文化は音楽かな。心に染み入る虫の声、涼やかな風鈴の音、少し物悲しげな夕方の豆腐屋のラッパ・・・。日本には、音楽だけでなく、”音”を楽しむ文化がありますね。

坂本 そうです。

大島 そうなると、まったく違ったスタンスで臨めば可能性は大いにある。

坂本 可能性はあります。ただ、同じような形で海外へ持って行くのは、難しいということです。

大島 なるほど。

坂本 マーケティングの難しいところは、言語も変わると、やり方も変わりますよね。マーケティングからの提案となると、海外で行うのは少し難しいですかね。逆に日本では、どんな業界でもいける自信はあります。

”刹那的”信号で日本発のイノベーションを! 

大島 ただ、常識を打ち破るのは難しいですよ。正直、視覚優位の文化ってありますから。

坂本 ありますね。

大島 日常生活で、音に囲まれている日本人であっても、製品開発となるとプロセスを大事にする。プロセスって、物事をきちんと組み立てて、決めて行くことでしょう?頭が介在すると、とたんに目に見える物が最優先される。この常識を覆して、発想の転換をさせるのが難しいですね。

坂本 視覚の良い所は、じっくり見れるところにあると思います。聴覚は、時間軸が全てなんです。これを上手く利用して貰いたい。

大島 時間軸ですから、直ぐに消えちゃいますね。

坂本 そうです。音は、直ぐに消えてなくなります。仮に、『好きだ』という言葉一つとっても手紙やメールなら、後からも、ずっと見れますが、声は発した瞬間にすぐに消えてしまうんです。”音"って”刹那的”なんです。今、この時、その一瞬だけ。瞬間瞬間なんですね。

大島 刹那的信号・・・瞬間瞬間・・・いいですね。

坂本 その分、本(伝わる技術)にも書きましたが、聴覚は記憶に残りやすいんです。声とか、言い方って覚えてますよ。私は19歳の時に父を亡くしましたが、未だに父に声を掛けられた時の声というか、言い方は忘れないですね。顔は、微かに忘れてしまうんです。写真とか見て、そうだ、そうだ、みたいな。

大島 目で見たものって、記憶の中で変わっていきますね。音は、刹那的だからかえって記憶に残るのかぁ、面白いなぁ。それとも、発生学的に、視覚よりも聴覚が先に出来て、生物にとってより根源的である。だから記憶に残りやすい、ということはないですか?

坂本 聴覚器官って、もともとは、魚からきてるんですね。確か。エラとか、あごが発達したと言われていたと思います。地上に上がったときに外的から守るために、音を聞く必要がでて、発達したという説です。

大島 そうなると、発生学的には視覚の方が先に出来たわけですね。

坂本 魚も、視覚はあったはず。ただ、水中で聴覚はあまり必要ないですねよね。

大島 魚って、音を聞かないんですか?

坂本 聞かなくはないですよ、って言うか、しっかり聞いてます(笑)聴覚は、危険察知のために発達した器官ですね。言語って多分大分あとですから。

大島 コミュニケーションってその後か・・・認識が違っていましたね(笑)

坂本 人類進化の中で、色々あったと思いますがいまは、視覚優位であるとは言えますね。ただ、目に見えるもの、目から入ってくるものについてはイノベーティブなことは、やり尽くしてきているように感じます。そういう意味では、聴覚って新しい発想になる可能性は高いと思ってます。

大島 それを、もっとアピールした方が良いですよ。任天堂と共同開発したキキトリックってのは、視覚優位のゲームソフトの中でかなりイノベーティブな商品が出来たんではないですか?

坂本 画面見なくても参加できますからね(笑)

大島 画期的な新商品というのは、世の中に理解されるまで、受けいれられるまで時間かかります。キキトリックはゲーム業界にとっては物凄い画期的なソフトですね。日本には音の文化があって繊細な感覚がある。それをテーマにしたキキトリックの商品コンセプトは、世の中に受け入れられるまで多少の時間はかかったとしても最終的には受け入れられますよ。絶対。

坂本 はい。

大島 ”視覚優位の発想”をどう乗り越えるかの問題はありますが。

坂本 高級レストランでも、ヨーロッパの高級レストランは、クラッシックが流れていたり。生のピアノ演奏、オーケストラが入ってますね。日本は、川のせせらぎの音や、ししおどし、が聞こえると高級感を感じる。そこにオーケストラ入れたら、高級につながりません。高級レストランでも、しっかりと音は活かされてますね。

大島 コマーシャルでも、最近は、”音”を上手に活かしているのもありますね。環境は整いつつある。商品開発に音が活かされる、その一歩手前まで来てますね。あとは、商品コンセプトに意識的に落とし込んでいくことが大事ですね。

坂本 そうですね。CMも、CMプランナーみたいな人から提案を受けるんだと思います。商品開発も、社内ルールも重要ですが、アイデアを含めて、外部のアイデアを受け入れていただけると、私達もお役に立てる機会が増えそうです。

大島 そうですね。今まで商品開発は視覚優位で来たけれど、視覚はやりつくしてきているから、これからは、聴覚に行くのは自然の流れだと思います。あとは、日本の企業文化を打ち破って貰って、日本発のイノベーションを聴覚から!

坂本 はい、頑張ります!今日はたくさん貴重なご意見ありがとうございました。