特別企画 対談

特別号
「男性と女性、高齢者と若者の聴覚心理学」
~傾聴だけでは足りない!伝わるコミュニケーション方法の伝授~

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Ⅰ.そもそも音とは何か?

Ⅱ.聴覚心理とは


和光市講座

ただいまご紹介頂きましたオトデザイナーズ坂本です。私も皆様と同じ和光市民です。三歳の時に和光市に来ましたが、当時は確か大和町という地名でした。一時和光を離れたこともありましたが、40年来和光市内で暮らしております。オトデザイナーズの本社は私の自宅と兼用です。今も和光市で暮らしている和光市民です。研修や講演を行なわせていただきますが、いつもと違うのは地元開催ということです。この中には私の幼少期のころを知っている方もいらっしゃいます。普段とは違う緊張感の中で始めさせていただきます。宜しくお願い致します。(笑)

まずは簡単な自己紹介になりますが、私は聴覚心理学を研究している企業研究者でした。聴覚心理学をベースに商品やサービスの開発をしようということでオトデザイナーズを設立しました。最近では任天堂とWiiのゲームソフト「キキトリック」を共同開発したり、色々な企業の商品やサービスの開発のお手伝いをしております。今回の研修のタイトルですが、『男性と女性、高齢者と若者の聴覚心理学』、サブタイトルが『傾聴だけでは足りない!伝わるコミュニケーション方法の伝授』でお話させていただきます。特に、高齢者とのコミュニケーションを中心にお話をさせていただきたいと思います。

なぜ、高齢者を中心にお話を進めて行くかというと、人間は20歳をピークに聴力が落ちて行くんです。知っていましたか?ここに参加されている方をお見受けすると20歳以下の方はいないようです。つまり、私たちは聴力だけ見れば、全員、高齢者であるということになります。もちろん年代や個人差もありますが、高齢になるとどのような変化があるのか、なぜ聞こえなくなってくるのかお話をして行きたいと思います。

さて、高齢者のコミュニケーションの話というと、直ぐに、「優しく接しましょう」「話を良く聞きましょう」みたいなことが言われます。実際にインターネットなどで調べると、そのような事が書かれているサイトが多いです。これって、精神論の話ですね?決して精神論が必要ないとは言わないですが、今回は聴覚心理学という、世界中で研究され、研究結果として分っている知識と技術を皆さんに学んでいただき、高齢者の円滑なコミュニケーションは精神論だけでは実現できないということを学んでいただきたいと思います。

前半はちょっと退屈かもしれませんが、まずは音って声って何なのか?という基礎知識を身につけてから、コミュニケーションの知識と技術について理解をしていただきたいと思います。前半は少し授業のようになってしまい退屈かもしれませんが、簡単に面白くお伝えしますのでお付き合い下さい。

Ⅰ.そもそも音とは何か?

1.そもそも音とは何か?

そもそも音って、声って何か?ということですが、どうやって伝わっているのか、聞こえているのか・・・説明できる人って少ないんですよ。

和光市講座

(このスライドのように)静かな水面に水滴がポッチャンと落ちます。落ちたところを中心に波紋が広がり、どんどん広がっていきます。一言で言うと音ってこの波になります。ただ、音を伝えるのは空気なので、この水面の波のように目で見ることは出来ません。でも、起きている事は同じです。考えてみてください。私たちはオギャーと生まれてから、ずっと、空気のないところで生活するというのは考えられないですね。そうすると、常にどこかで、この波が起きているということです。その場で音が発せられたということは、その場所を中心に波が発生し、空気を伝わり、あらゆるところに伝わるということです。皆さんの耳の穴の中にも空気があるので、その波は耳の中にも伝わっていきます。次に、耳の中には鼓膜という薄い膜があります。海の波打ち際を想像してください。波が行って戻って、寄せては返してを繰り返すと思いますが、鼓膜も同じです。空気の波が来ると、と鼓膜が動かされ、そこから内耳という器官を通じて脳に信号が伝わり、私たちは音がしたと感じるわけです。

2.音の基礎知識 音の大きさと高さ

もう少し音の基礎知識についてお話します。先ほど、音の伝わり方を、波のように波紋が広がって伝わっていくというふうにお話をしました。この波紋を断面(横から)でみると、このスライドのような形になります。

和光市講座

音の大きさでいうと、大きな音は波が大きい、小さな音は波が小さいです。これは何となく皆さんも予測が付くと思います。次に、今日の重要なポイントになりますので覚えていただきたい、高い音と低い音の違いについてです。キーンという高い音、ヴォーという低い音。この高い音と低い音の違いは何なのか分りますか?スライドを見て下さい。高い音は波が細かく、低い音は波がゆっくり、粗いです。音の高い低いって波の細かさで感じているんです。周波数って言葉を聞いたことあると思いますが、周波数って1秒間にこの波が上がったり下がったりを何回繰り返すかを数字で表したものです。つまり波の数を周波数といいます。何Hz(ヘルツ)って聞いたことありませんか?例にすると100Hzと1000Hzの音は波の数が1000Hzの方が細かいので、高い音として聞こえます。

3.複合音

例に挙げた波ですが、これは同じ形をした波の繰り返しです。つまり同じ周波数がずっと続いている音になります。これを純音と呼びますが、これは自然界にはない音です。つまり、私達が普段生活している中で聞くことはほとんどありません。私達が身近で聞く純音は、聴力検査のピィピィという音や、テレビ局の放送終了後のテスト信号のピーという音ですね。あれはテスト用に作っている音になりますので、普段生活している中(自然界)では純音を聞くことはありません。それでは私達が聞いている音は何かというと・・・自然界に存在している全ての音は、色々な音が混ざった複合音になります。色々な音が混ざっているということは、つまりは、いろいろな周波数の音が混ざった音ということです。今私がしゃべっている声も複合音になります。しかし、この複合音、自然界に存在する音は、2種類や3種類の音の複合ではなく、無限の音の混じり合わせによって作られているんです。それではどうやって、高い音、低い音って感じているかというと、高い周波数の音が強く混じっているか、低い周波数の音が強く混じっているかということを耳の中で分析し、その結果を脳で受け取って違いを判断しているんです。

4.耳の構造

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それではどうやって聞き分けているのか。皆さん耳っていうとこの耳(耳介)を想像しますね。実は、音を聞き分けるという意味では、耳介はあまり役に立っていません。例えば、格闘技の選手や力士では、耳介の形が潰れてしまっている人もいます。しかし、あの人たちが、言葉が聞こえない、コミュニケーションが取れないということはありませんね?それでは、聞き分けるのにどこが大事かというと、耳の穴(外耳道)の方が大事です。先ほど説明しましたが、ここに空気が満ちていないと音(波)は伝わりません。鼓膜の先には耳小骨というのがあります。鼓膜が動くと耳小骨も動き、その先にある内耳というカタツムリのような器官を押すような動きをします。内耳については、チューブを想像してみて下さい。チューブを丸めたようなもので、この中は、リンパ液という液体で満たされています。人間が音を聞き感じるためには、この内耳が最も重要です。高齢者の聞こえやコミュニケーションに関しても、内耳の役割がとても重要なんです。この後、内耳の機能について少し解説致します。

5.内耳

内耳はチューブの中にリンパ液という液体が詰まっていて、それを丸めた物(カタツムリのような形)だと思って下さい。鼓膜が揺れると、そこに骨(耳小骨)が付いているので、骨が鼓膜の動きに応じて、チューブを押し引きします。そうすると、チューブの中のリンパ液が波を打ちます。内耳(チューブ)の部分を切断した断面を模式的表したのが、このスライドです。

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真ん中に膜(基底膜)が張っています。膜の上に細胞があります。実はこのチューブの中に何万本という、こういった棒状の細胞が並んでいます。音が入ってくると、リンパ液で波が起きるので、その波に応じて膜が上がったり下がったりします。細胞の上には毛が生えていて上には蓋(フタ)があり、波で膜が上げられると、毛が蓋にぶつかるようになっています。波が起きて毛が蓋に当って曲がると、細胞から神経の活動電位が出ます。この活動電位が聴神経を通じて脳に伝わり、私たちは「音が聞こえた!」と感じます。なぜ、この毛が生えた細胞が何万本も生えているかというと、この一本一本が音の高さを担当しているんです。高い音はチューブ(内耳の)外側にある細胞で感じ、低い音は内側で感じています。メカニズムとしては、チューブ内のどの場所にある細胞が反応したかによって、私たちは、今、耳に入ってきた音の高さを聞き分けているということになります。

6.会話に必要な周波数帯

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このスライドの表は横軸が周波数、縦軸は音の強さを表しています。一番下の線は最小可聴閾値といい、人間が聞くことの出来る最も小さい音を記した線になります。表を見ていただくと分りますが、周波数によって聞こえる音の大きさって違うんです。125Hzの音だと35dBぐらいですかね。3500から4000Hzだと4dBでも聞こえるんです。会話音(人の声)を分析すると、ここで黒く塗りつぶしてある範囲に周波数成分があります。周波数で言うと100Hzちょっとから3500~4000Hzぐらい。音の強さでいうと40dBから70dBあたりに入ってきますかね。その中でも、言葉を聞き分けるために重要な周波数帯というのが一番上に書いてある、この部分です。つまり、会話を理解するのに重要な範囲ということになります。このようなデータは聴覚心理学の実験データから分っているんです。この範囲の音の成分が聞こえればば会話は成り立つということです。

7.電話

良く考えて下さい。昔、電話がなかった時代に、各家庭全てに普及させることは、かなりの社会インフラを整える大規模事業でした。音って、単純に、相手に送る周波数の範囲が広ければ広いほど、システムにお金が掛かっちゃうんですね。狭くすれば狭くしただけコストが安く出来るんです。当時、電話を考えた人は、会話が成立すれば良い。電話で音楽聞く人はいないでしょう。会話が成立する範囲の情報が送れればいいと考え、電話が送る周波数の範囲を、会話が成立する範囲に設定することでコストを抑え、各家庭に電話を普及させました。今皆さんが普段使っている携帯電話は線がありません。そうすると、電話よりさらに送る情報を少なくしたいわけです。携帯電話はあの中にコンピュータが入っていて、人間の音声の特徴的な成分だけを抽出して、それを数字で送信しています。受ける側は特徴成分を受信して、音声を合成します。分りやすく言うと、ロボットの声のように、電話の中のコンピュータで声を作っているのです。そうしないと、皆が無線で電話を使うということは、コスト的に難しいのです。

8.オレオレ詐欺について

人の声の違いって、多くは4000Hz以上あたりにあるんですが、先ほども話した通り、電話や携帯電話は、低コストで皆が通話できるようにするために情報をカット(情報を圧縮)して送ります。正直に申し上げて、電話では、話者の識別は難しいということです。ここ数年、オレオレ詐欺や振り込め詐欺にひっかかるのは高齢者が多いので、高齢者の方は気をつけましょうと言われますが、高齢者でない我々だって、気付かず騙されてしまうということはありますので注意して下さい。