坂本 第6回目ゲストは、TMJ木下さんと竹内さんです。宜しくお願い致します。
木下・竹内 宜しくお願い致します。
坂本 対談の前に、お二人のスタイルが普段ビジネスカジュアルということで、今日は私もカジュアルな格好で臨ませていただきました。宜しくお願い致します。
竹内 坂本さん、いつもスーツ姿ですから、印象が変わりますね。
坂本 そうですか?(笑)お客様を訪問する時はスーツですが、それ以外の時は比較的カジュアルな格好が多いんですよ。では、早速対談に移りたいと思います。今回のテーマは「シニア(高齢者)と聴覚心理」でお届けします。読者の皆さんはご存知かもしれませんが、私は、オトデザイナーズを創業する以前は、補聴器の研究開発をしていました。今回の対談は私の専門的な領域ですので、非常に楽しみにしております。まずは、読者の皆様へ貴社の事業内容と、お二人が所属されている競争力開発部の役割について教えて下さい。
木下 はい。まずは、会社の事業案内からさせていただきます。弊社は、ベネッセの顧客接点部門から分社独立した会社になります。メインの事業は、コールセンターになります。昨今、顧客接点といいますと、電話に加え、WEBやE-mail、さらにチャットやTwitter(ミニブログ)やSNSに広がり、動画・映像を活用するケースも増えてきています。このような様々な顧客接点を最適化し、さらに顧客接点の前後工程をお助けすることにより、お客様のビジネスをサポートするBPOビジネスを生業としております。
*BPO:Business Process Outsourcingの略。企業活動における業務プロセスの一部を一括して外部委託すること。
株式会社TMJ 競争力開発部 部長 木下 哲 様
坂本 貴社の会社案内を拝見させていただくと、科学的アプローチと工学的アプローチという言葉がよく出てきます。コールセンター業務を提供されている会社が、科学的アプローチと工学的アプローチ・・・どう繋がっていくのですか?
木下 そうですね。顧客接点については、論理・客観的な要素より、主観・感情的な要素が強くなりますよね。今回の対談のテーマでもありますが、特にシニア(高齢者)との電話応対については、それが顕著です。時間を気にしないで、とにかくお客様の話を聞き、お客様の気持ちに寄り添い、親身な応対をしていく。まさに主観的な要素が全てで、生産性等、客観的な要素、概念はないことが多いです。
坂本 そうですね。
木下 ただ、弊社はクライアント企業様からお仕事を頂いて、顧客接点業務を行っています。主観・感情的な気持ちはもちろん大切ですが、それだけで運営しながら、継続的なサービス改善はできません。運用状況・現状をきちんと定量的に可視化した上で、最適なオペレーションを実施していく必要があります。
坂本 なるほど。
木下 つまり、KPIに則った数値管理、稼働管理、オペレーション管理をやっていく必要があります。しかし、それでいて、CSに関しても、きちんと両立させて行きましょうということです。そのリーズブルナバランスを取っていくためには、科学的なアプローチも用いないと、立証したり、改善したりするのは難しくなってしまいます。例えば、タイム計測をしながら、前と後でどう変わったのかということなどが、科学的アプローチのベースにある考え方です。
*KPI:Key Performance Indicatorの略。業務の達成度を定量的に把握するための指標のこと。
*CS:顧客満足度(Customer satisfactionの略)。
坂本 弊社の考え方にも近いものがあります。聴覚心理を研究してきた人で、コミュニケーションという言葉を使って研究をしている人は少ないです。どちらかというと、真面目な研究者は嫌いますね。コミュニケーションというと精神論的な話になりがちですから。一般の人でも、良く相手の話を聞きましょう、耳を傾けましょう、のような話は聞くと思います。でも、精神論は、あくまで精神論ですから。ベースに理論とか技術がないと結果には結びつきません。
木下 はい。
坂本 貴社に初めて伺ったときに、木下さんから言われたのかな?(高齢者とのコミュニケーションに関して)精神論的な話ではなく、テクニカルな理論的な話を教えて欲しいと言われました。その時、弊社の考えに凄くマッチするなと、“勝手に”感じました(笑)
木下 そうですか(笑)
坂本 CSって気持ちがないと駄目だと私も思います。ただ、基本的な知識がない状態で、ただ「優しい気持ちで接しましょう」と言っても、それだけでお客様が喜ぶとは限りませんね。コミュニケーションの話になると、どうしても精神論が真っ先に出てしまいますが、まずは人間の聞こえの仕組みや高齢者の聴覚の状況を理論的に知った上で接する必要があると思っているんです。科学的に。
坂本 次に、お二人の部署の役割をお教えいただけますか?
木下 はい。競争力開発部とは、一言でいうと、弊社のサービス開発をしている部署になります。
坂本 もう少し読者に分かりやすいようにお話しいただくと?
木下 そうですよね、普段もよく「競争力開発」って、すごい名称、何やってらっしゃるんですか!とよくお客様から言われます(笑)弊社の林(TMJ代表取締役 林純一様)も常々言っているのですが、「クライアントバリュー」、お客様の事業に対する貢献をしていくというのが、弊社の経営理念であり、全ての活動の原点です。お客様の事業に何をもって貢献するか? 何をすれば、お客様の事業の競争力として貢献できるか、競争力開発部は、お客様の事業の競争力となるため、TMJのサービスを新たに開発していく、そういった活動を行っています。
坂本 なるほど、お客様の競争力を基に、活動されているということなんですね。ちなみに貴社のお客様には、どのような業種が多いのですか?
木下 金融、通販、メーカー、様々な業種業態のお客様がおられます。
坂本 そうすると、業種業態、さらにお客様によって、何をもって貢献するか?というのは様々で難しそうですね。
木下 そうです。まずは、各業種業態、さらにお客様の事業にとって、何が課題となっており、そのためにどんなソリューションが最適なのか、そこから考え始めます。例にあげれば、セールスを伸ばすことなのか?生産性を高めコストを削減することなのか?または、お客様の満足度を高めることなのか?お客様の一番の要望に最短でフィットし、それを高められるようなソリューションを通常のオペレーション+αで提供します。その+αの部分はよく付加価値といわれますが、その部分が「競争力を開発する」ということに繋がっていくと考えています。
坂本 つまり、基本的なコールセンター業務は提供しながら、競合他社と差別化できるサービスを開発するのが、お役目ということになりますね?
木下 そうです。おっしゃるとおりです。私たちの仕事は、その+α、付加価値の部分をどれだけ深められるかということだと思っています。どれだけ徹底的にこだわれるのか。それがお客様の役に立てば、弊社を選んでいただいたことにより、お互いWin-Winの関係が築けますね。そういう意味では、+αの部分はとても重要であると思っています。
坂本 そのお考えも、弊社の考えとマッチするところがあります。そもそも五感の中で、今は視覚優位の時代です。そうすると聴覚は主役ではなく、脇役になってしまいます。しかし、そこに注目して、既存の商品に+αしていただくことで、他社と差別化できる商品や、サービスの開発が出来るんです。弊社はそれをお手伝いしています。
坂本 ところで、最初は、どのような経緯で弊社へお問合せをいただいたのでしょうか?
竹内 はい。先ほど木下から、顧客とのコンタクトチャネルが電話以外にも多岐に渡っているという話がありましたが、現状、そういった電話以外のチャネルを利用する多くは、若年層です。高齢者からは、やはり電話によるコンタクトが多いですね。入電の60~70%は高齢者というケースも、決して少なくありません。
株式会社TMJ 競争力開発部 竹内 冬樹 様
坂本 日本は高齢化が進んでますからね・・・そうですか。
竹内 実際にシニア(高齢者)の電話対応ということについては現状でも難しいことが、たくさん出てきています。「なかなか話を聞いていただけない」「ずっと話をされている」「話の途中で急に怒り出す」などの声もあります。
坂本 シニア(高齢者)対応の難しさ、分ります。
竹内 はい、それで、シニア(高齢者)という切り口で、応対やコミュニケーションスキル、それを踏まえたセンター運営に関して深めていく必要があると考えました。
坂本 つまり、先ほどの、+αの部分ですね?
竹内 はい。その通りです。その取り組みとして、弊社のニュースリリースでも発表しましたが、東京大学の産学ネットワーク「ジェロントロジー」に加入し、多種多様な企業の皆様と情報収集、意見交換を行ったり、社内プロジェクトを立上げて、社内でアンケート等の情報収集やディスカッションをしていました。その中で、そもそもシニア(高齢者)ってどういう風に聞こえているのか?という疑問にぶつかったんです。先ほど坂本さんから聴覚は脇役の要素が強いというお話がありましたが、弊社の業務は、電話を使いますから脇役ではなく、むしろ主役ですね。
坂本 そうですね!
竹内 それで早速、木下と2人でシニア(高齢者)の疑似体験をしてきたんです。メガネをかけての見え方の体験、聞こえの体験は・・・確か耳栓をしたのかな?
木下 そう、耳栓をしましたね。
竹内 そしたら周りの音が全く聞こえないんです。だから案内してくれているガイドの方が何を言っているかもわからない。良く考えたら耳栓しているのだから、聞こえないのは当たり前ですけど(笑)
一同 (笑)
竹内 この時は、聞こえの体験は、うまくできなかったなあと思ったんですが、百聞は一見にしかずといいますか、体験により、その効果は全く異なるだろうと思いました。それで、そういうことを(科学的に)きちんと疑似体験できるシミュレーターがあれば、実際の(高齢者)応対に、かなり役立つなという発想がありまして。
坂本 そうだったんですか!
竹内 それがきっかけで、とにかくそういったアプリを開発できる会社がないか探しました。仕事中はもちろん、家に帰ってから。ちょうどiPad買った後だったので、AppStoreで似たようなアプリないかなあ、とずって見てましたね。(笑)その中でフィットするようなアプリを見つけ、その会社のWEBサイトに行きつきました。
坂本 それが弊社だったと(笑)
竹内 はい。任天堂さんをはじめ色々な会社とお取引があるという実績。坂本さんの経歴を見ますと、補聴器の研究開発をされていたとのこと。我々にとっては、何より聴覚に非常に興味があったことで、すごく惹かれました。そして、研究だけではなく、聴覚についてビジネスを展開されている。これは一度、お話を聞いてみたいという気持ちになり、木下に相談したところ、木下も直ぐに理解をしてくれて、「お会いしてみよう!」ということになり、お問合せをさせていただいたんです。
坂本 実は、貴社からお問合せをいただいた後に、「なんで、弊社の知識や技術が、こんなにもマッチする業種を、今まで見つけられなかったのかな?」と少し反省しました。先ほどの高齢者擬似体験は、私も体験したことがありますが、非常に良く出来ていると感じました。しかし、聴覚の話になると・・・エラく現実離れしているんですよね(笑)これは私が専門家であるからという点を差し引いても、耳栓をしていればシニア(高齢者)の聞こえを体験できるだろうみたいなのは・・・ちょっとね。
木下 そうですね。仕事をご一緒させていただいた今なら、すごく分かります。
坂本 はい、今回、一緒にお仕事をさせていただいて、皆さんにはご理解いただけたと思いますが、音って目に見えないので、なかなか理解していただくのが大変です。ただ、決して耳栓をしたからといって、シニア(高齢者)の聞こえを体験できるわけではないんです。耳栓をしている状態の聞こえというのは、実際の老人性難聴とは全く違うし、音がほとんど聞こえないのでは、まずは補聴器を着けていただくレベルですね。しかし大部分のシニア(高齢者)の方は、その手前にいるんです。
竹内 耳栓をしてシニア(高齢者)の聞こえを体験するというのは、やはり、かなり違いますね(苦笑)
坂本 それにしても、アップルのストアーから弊社を(笑)
木下 アップストアーですね(笑)
坂本 アップストアーかぁ・・・(笑)
竹内 もちろん、普通にパソコンで検索をしましたが、なかなか見つからなかったんです。そこで、そういう会社は何かしらアプリを製作しているのではないのかと、発想を切り替えました。
坂本 なるほど。うちは、SEO対策が出来てないんだなぁ(笑)
坂本 真一 「伝わる」技術 著者 オトデザイナーズ代表取締役 工学博士
一同 (笑)
竹内 そうしたら、iPhoneアプリの「ノイズボイスメーカー」だったかな。最初にそれを見つけたんですね。そこから貴社にたどり着いたんです。
坂本 実は、このお話をいただいてから、弊社もHPをリニューアルしまして・・・シニア(高齢者)の聞こえのページを追加したり、対策しましたよ(笑)
木下 ほぅ、じゃ、検索してみましょう。
坂本 ホームページだけではなく、ブログでも、シニア(高齢者)、聞こえ、音で脳トレなどの記事を積極的に書くようにしています。
木下 本当だ! “シニア”、“聴覚”で検索すると1ページ目に出てきますね!(その場で検索して下さいました)
一同 (笑)