特別企画 対談

vol.5 「日本再生と聴覚心理」
     ~日本企業再生のヒントに知的財産の活用~

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坂本  第五回目のゲストは弁護士・弁理士の鮫島正洋先生です。宜しくお願い致します。

鮫島  宜しくお願い致します。

坂本  対談の前に、知財功労賞(経済産業大臣表彰)の受賞、おめでとうございます。

鮫島  ありがとうございます。

坂本  まずは、読者の皆様に先生と弊社との関係について説明させていただきます。弊社設立後、ベンチャー企業の側に立ってくれて、技術や知財にとても詳しい先生がいらっしゃるということで、今後、オトデザイナーズには絶対に、そういうスキルを持った先生が必要になるからと、第2回対談のゲストの大島先生からご紹介いただき、お目にかかったのが始まりでした。その場で、すぐに色々とご相談に乗っていただいたのがお付き合いのきっかけでした。

鮫島  はい。

坂本  任天堂と弊社がキキトリックを開発し始める前からですから、本当に設立直後だったと記憶しております。本当に長く見守っていただいてありがとうございます。

鮫島  いえいえ。

坂本  「聴覚」の仕事をしている会社というのは、さすがの鮫島先生もほとんど関わられたことのない業種だと思いますが・・・突然そんな会社から連絡があって、実際にお会いいただき、率直にどのような印象を持たれましたか?

鮫島  まず、技術分野的には非常に面白い。視覚はいっぱいあるけど、聴覚はないですね。面白いだけではなく、聴覚ってどのような応用があるのか興味がありました。反面、現状ではマーケットがほとんど無いわけですから、大変な業種だろうというのが率直なところでした。

坂本  はい、仰るとおりですね(笑)

鮫島  ただ、マーケット開拓に時間は掛かるでしょが、技術があれば・・・そこには技術がないと駄目です。そういう意味ではしっかりと技術を持たれた会社だなという印象でした。

坂本  ありがとうございます。実は鮫島先生が著名な先生だと知ったのは、お恥ずかしい話、お仕事をご一緒させていただいてからなんですよ。勉強不足で・・・すいません。ロースクールに通っていた若者と話す機会があって、何の気なしに将来はどんな弁護士を目指してるの?って聞いたことがありました。そしたら、鮫島正洋先生ってご存知ですか?って、いきなり尋ねられまして・・・

鮫島  ほぉ!それは奇遇ですね。

鮫島 正洋
内田・鮫島法律事務所
弁護士・弁理士
鮫島正洋先生プロフィール(内田・鮫島法律事務所_HPへ)

坂本  彼は、中小企業を支援する弁護士になるか、医療事故を扱う弁護士になるか迷っていたそうですが、当時、鮫島先生の講演を聞いて、中小企業を支援するような弁護士になりたいって気持ちが強くなったと言っていました。

鮫島  LECの講演で聞いたのかな?

坂本  「オトデザイナーズの顧問弁護士だよ」って言ったら、「ええっ!」て、驚いていました。「ロースクール生の中では、有名な憧れの先生ですよ!」って、「凄い人とお仕事されているんですね」って逆に驚かれました。遅まきながら、先生が著名な方だと知りました(笑)

鮫島  いやいや、そうですか(笑)

坂本  著名と言えば、一昨年の直木賞作品「下町ロケット」の神谷弁護士のモデルにもなられていますね。当時、非常に興味深く読んでいたのですが、そこに登場する、神谷弁護士が、鮫島先生に似ているなぁと思ったら、実は先生がモデルになられているのを後から知りまして・・・ホントに勉強不足で・・・もう一度読み直してしまいました。この対談の読者の皆さんにも、ぜひ、読んでいいただきたいですね。神谷弁護士は鮫島先生なんですよ(笑)

****成長する中小ベンチャーの条件****  

坂本  ところで、もちろん小説だけではなく、実際に中小、ベンチャー企業を担当されていることが多いと思いますが、成長する中小ベンチャーと、そうでない中小ベンチャーの違いは、どのような所に感じられますか?

鮫島  一つには技術力があるということ。もう一つは、技術があっても、それが大企業と競合するような物だと正直厳しいですかね。

坂本  例えば?

鮫島  今でいうと例えばLEDとかですね。これだけ広まっていると、仮に特許に値する技術を開発出来たとしても既に関連特許を大手に抑えられているケースというのが大いにあります。大企業の場合は、特許を出願する数も多いですから。

坂本  一昔前ですと、有機ELとかもそうですね。

鮫島  そうです。一見、専門外の人から見ると最先端の事をやっているので「凄い!」となりますが、専門家からみると「競争(して勝つの)は大変だな」という印象を受けますね。それに、ビジネスモデルを作るのが難しい。私が判断するときの入口として、その点を見ます。次にもう一つは、一概には言えませんが、やはり社長の知財や法務などに対する“センス”ですね。率先して設備などに投資する社長さんと、法務や知財に投資する社長さん。これは両極端に考え方が分かれます。知財や法務のプライオリティが低い企業は、良い技術やアイデアを持っていても、盗まれたり、上手く活用しきれず、結果として成長できるチャンスを逃しているように感じますね。

坂本  やはり・・・そうですか。

坂本 真一
オトデザイナーズ代表取締役 工学博士 「伝わる」技術 著者
2012年任天堂から発売された、Wiiソフト「キキトリック」を共同開発

鮫島  経営者からみると、知財法務は(直接的には)何の収入にもならないですけど、経費だけは見えちゃうわけです。でも、きちんとやれば経営効率が上がるはずというのが私達の考えですね。

坂本  そうですね。実際、お金と手間は掛かりますので敬遠される経営者の方もいらっしゃいますね。

鮫島  お金と手間がかかるわりに、数字的に何が向上するのか良く見えてこない。

坂本  リターンが来るかどうかがわからないということですね。

鮫島  少なくともコスト削減とは反対になるわけです。コストをかけても、どのようなリターンがあるのか全くわからないですね。

坂本  はい。

鮫島  私たちは、きちんとそこを説明することが責務と思っています。けれど、センスのない人が分りましたと言うパターンは少ないですね。もともとセンスがある人が聞いてくれて、「やはり自分の考えは間違っていなかった、だったら専門的にやろう」というパターンの方が成功しやすいです。

坂本  私も、経営の中で知財のかかる負担は実感しています。海外にも、出していまして・・・

鮫島  それは大きいですね。

坂本  審査中のものもあり、維持費だけでも大変です。

鮫島  そうですね。

坂本  拒絶理由通知が来れば衝撃ですよね。正直、特許を捨てようかなと悩んだ時期もありました。小さいところには(費用負担は)重いですね。

鮫島  重いですね。

坂本  ただ、私たちはそこで知的財産をなくしてしまったら、会社としての存在意義がなくなると思っているので・・・整理は必要ですが、「(知財を)捨てる=(事業を)やめる」だなって割り切りました。

鮫島  下町ロケットでも、こんな台詞がありましたよね。「特許を売り払うことは魂を売ることと同じだ」って。でもそれは、現実にはお金がかかりますから非常にきついですよね。

坂本  はい。私も特許事務所から届く請求書を見るのは、いつもドキドキしますね(笑)ある特許の時は、外国で分割指令を受けました。分割されると、分割分費用を払わなくてはいけないので、大変厳しい・・・きついですね。

鮫島  分割指令、それは大変ですね。

知財功労賞:産業財産権制度の普及促進及び発展に貢献のあった個人に対して「産業財産権制度関係功労者表彰」として、また、産業財産権制度を有効に活用し、その発展に貢献のあった企業等に対して「産業財産権制度活用優良企業等表彰」として、それぞれ経済産業大臣表彰及び特許庁長官表彰(『知財功労賞』と総称)を行っています。

出展:特許庁
平成24年度「知財功労賞」については特許庁ホームページまで



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