****良い音、良い音楽とは?****
古晒 MP3は、聴覚心理に関わりがあると聞いたことがあるんですが坂本さん、ご存知ですか?*MP3 映像データの圧縮方式で知られる“MPEG-1”で利用される、音声(サウンド)の圧縮方式の一つ。最も広く普及している音声圧縮方式の一つである。
坂本 MP3は、確かに、聴覚心理の技術を使って作られていて、人間が音を聞き取るのに、必要な情報と必要でない情報。聴覚心理のデータから、必要でない情報を削除して、情報量を少なくして配信できるようにしたのがMP3です。
古晒 パソコンの音声データとして世間的に認知されたのはMP3ですよね?そんなところにも、聴覚心理があったんですね!(驚き)今は、MP3プレーヤーも沢山発売されてますし。カセットテープをデジタルオーディオ機器に変えた技術ですね。
坂本 そうですね。 これもイノベーションだなぁ(笑)
古晒 一般の人にパソコンが普及した時、CDのデータって当時のパソコンのスペックからみると、かなり大容量でしたね。それで、圧縮技術が必要で、MP3も考えられたんですかね?
坂本 MDってのもありましたよね。
古晒 ありました。
坂本 MDって普及すると思ってたんですが・・・私、未だに持ってますよ~、使ってないけど。
古晒 (笑)
坂本 CDは、サンプリング周波数が44.1kHzで、MDは、32kHzだったかな?*サンプリング周波数 アナログ信号からデジタル信号への変換(AD変換)を1秒間に何回行うかを表す数値。単位は「Hz」。一般に、この数値が高いほど高音質と言われる場合が多い。
古晒 そうです。若干CDより悪いんですね。
坂本 サンプリング周波数が低いだけならいいけど。確か、それ以外に情報圧縮されているのかな。CDのデータは、そのまま取り出すと他にいくらでも加工しやすいけど、MDは非線形な圧縮をされていてそのままでは、素人は使えないんですね。音楽を聞くだけだったら良いですが、パソコンが普及したことがMDが普及しなかった原因なのかな・・・?
古晒 確かに、パソコンの音の世界も、高音質の世界とより軽く小さくって世界と、分かれてきたように感じますね。CDも、DVDが出て来て、(サンプリング周波数)48kHz(の高音質)に変わっていき、一方で、MP3の世界は、携帯電話が普及して、さらに圧縮して、結局、規格が細分化されてしまってきているように感じますね。
坂本 そうですね。視覚と聴覚の違うところで面白いところは画像(視覚)って二つ並べて見比べられますが音楽(聴覚)って二つ並べて聞き分けられないですね。画像は、その場で見比べますが、音は、時系列的にずれますから、同時比較は難しい。そもそも、同じ曲を違うメディアで同時に聞き分けるというのはまず、ないですよね。でも、圧縮された音楽とそうでないのを、その場で聞き比べると圧縮された音楽の方が音質が悪いって分かるケースが多いですよ。
古晒 そうですね。確かに、そういう聞き比べってしないですね。
坂本 不思議なのは・・・圧縮されていても十分満足なんですね。それでずっと聞いていると。私だって、最近、音楽聞くのは携帯が多いですよ(笑)
坂本 音の媒体の面白い特徴で音の信号って、皆さんが気にするのは、ほとんどが音量かな?知っている人は、周波数であるとか、音色とか言いますね。
古晒 はい。
坂本 研究者からみると、音の最も特徴的なところは、時間的な変化です。時系列の変化です。
古晒 音って、“その瞬間”で、すぐになくなってしまいますからね。
坂本 今、「あ」って言ったら、次の瞬間には消えているわけで、もう、次の音になってますね。だから音楽も、同時に流して聞き比べるというのは出来ないわけですね。MP3とMDが、市場で通用したのは、そういうところもありますね。
古晒 なるほど。
坂本 家電量販店を例にとれば、テレビがあれだけ並んでいると、綺麗な機種は、一目瞭然ですよね。音ってそれがないので・・・
古晒 そうですね。
坂本 聴覚の面白いところですね。誤魔化せるというか。
古晒 視覚の世界でも、誤魔化しってありますね。脳で補間するって前に聞いたことがありますが・・・聴覚でも、脳が補間するんですかね?
坂本 補間はしますね。聴覚は補間だらけですよ(笑)ただ、音楽の世界は何が良くて何が悪いという定義はないですね。
古晒 そうですか?
坂本 「サウンドとオーディオ技術の基礎知識」で蘆原さんと書きましたが、ドーナツ盤のブツブツする音が悪いわけではないわけです。その時代の思い出を持つ人は、それを聞くと、涙するわけです。確かに、音質から言えば、ドーナツ盤の時代は、10kHzや15kHzが超高音質って、言われていたわけですが、今は、20kHz超えてるわけです。
*蘆原さん 蘆原郁氏(産業技術総合研究所)「サウンドとオーディオ技術の基礎知識」の共著者。
古晒 つまり・・・
坂本 そうです。 高音質=良い音、良い音楽ということにはならないですね。