オトコラム

第67号 その場の“気分”を決めるもの

私たちの生活の中で、理由は分からないけれども、何となく気分が落ち着く部屋、もしくは、なぜかイラっとくる場所というのはあるものです。

以前に、ある企業の方に聞いた話ですが、そこの会社では、なぜか険悪な雰囲気になってしまう会議室というのがあるそうで、大事な話し合いの時には、その会議室を使わないようにしているとのことでした。

飲食店などでもありますよね。キレイにしているんだけれども、何となく落ち着かない店って。

以前に、ヨーロッパのある研究者が、五感の中で「人間の“気分”」と最も関係が深い感覚を調べたことがあります。その結果、最も“気分”に大きな影響を及ぼす感覚は、僅差だったらしいですが、

1位 嗅覚

2位 聴覚

だったとか。

これは、学術研究の厳密さから考えると、若干疑わしい部分もある調査結果なのですが、さりとて大外れというわけでもなく、主にマーケティング分野などでは広く参考にされている結果です。

実際、海外の航空会社などでは、客室内の“香り”に気を配った結果、顧客満足度が飛躍的に向上した例もあるそうです。

いずれにしても、人間の気分というものは、直接的な感覚である視覚(見た目)よりも、目に見えない香り(匂い)や音に左右されるもののようです。

ところで、この結果って、日本人にも適用可能なのでしょうか?それとも、ヨーロッパ人だけの特徴?

同様の調査を日本人で行った結果って私は見たことがないので、明確な答えは分かりませんが・・・

私の予想では、日本人では、

1位 聴覚

2位 嗅覚

なのではないかと。これは何も、私が音の仕事をしているから言っているわけではありません。

ヨーロッパでは、香水をはじめとする香料が太古の昔から使われてきました。ヨーロッパ人は匂いにとても敏感で、そして、とても気を使います。ナポレオンは、長期の遠征から帰る前に早馬を飛ばして、自分の奥さんに「今日から私が帰るまで、お風呂に入らないように」と伝えていたという記録があります。こだわるなぁ、匂いに・・・

一方で、日本にも香道という文化はありましたが、香りへのこだわりはヨーロッパ人ほどではなかったように思います。

それよりも日本は、例えば、お庭に小さな小川を作って、せせらぎや鹿威し(ししおどし)の音を楽しんだり、風鈴の澄んだ音で涼感を演出したりと、海外にはない「音の文化」が多い国です。

だから、ヨーロッパ人よりも、聴覚の影響が大きいように思うんです。

音は、人々の気分を良くすることも、悪くすることもできる媒体です。

目に見えないからといって、その存在を忘れないでください。

少し静かにして、耳を澄ましてみると・・・

あなたの今の“気分”を決めてしまっている“音”が聞こえてくるかもしれませんよ。

(2017.6.12)


△ページTOP