これまでに、「音がいかに複雑な信号であるか」というお話をしてきました。そして、この複雑な信号(音)を受信し、その内容を聞き分けるために、「人間の聴覚器官(耳)が、いかに複雑で、いかに精密な構造をしているか」というお話も、たくさんしてきましたよね?
耳で受信し、内容を分析された結果は、当然のことながら脳に送られます。さて、それでは脳では、どのようにして、この分析結果を活用しているのでしょうか?
と言っても、脳には本当に数え切れないくらい様々な機能と役割があります。また、私は脳の専門家ではありませんので、そんなに詳しい解説はできないんです。そこで今回は、聞き難い環境で言葉を聞き取る際の脳の役割について、その一部だけを簡単にお話したいと思います。
音は、時間の経過と共に物凄いスピードで変化している時系列信号です。写真のように、一つの音に時間をかけて、じっくり眺めることは出来ません。現れては消え、現れては消え・・・もう次の音が入ってきてしまいます。言葉の、特に子音などは、数ミリ秒(ミリ秒は1/1000秒)で消えてしまうのです。
聴覚器官は、物凄いスピードで、これらの信号を正確に分析しています。この分析結果を受け取った脳は・・・
例えば騒音の中の音声であれば、騒音を除去して音声に関する情報だけを抽出し、その内容を正確に理解する。本当に、そんなスピードで全てを正確に理解しているのでしょうか?
実は脳は、全ての信号を正確に理解しているわけではないようです。
誤解を恐れずに言うと、「一部の信号を認識したら、残りの内容は予測して理解している」と考えれば良いと思います。
例えば、騒音の中で「こんにちは」という声をかけられたとします。
子音と母音に分けて書くと、"konnichiwa"です。
騒音に一部の音が、かき消されると、
"k●●ni●●●a"
になりますね?
これだけあれば、たぶん大丈夫!
皆さんの脳は、●の部分を自然に、当たり前のように正しい母音、子音で埋めて「こんにちは」だと理解しているのです。
特に、最初の子音(「こんにちは」の場合は"k")を認識できると、その後ろに続く音節の内容は、かなり正確に予測し、理解できることが知られています。
うるさい場所では、相手の方の喋り始めや文節の頭に集中し、そこをしっかりと聞き取るように意識してみてはどうでしょうか?
ここを聞き取れれば、あとは皆さんの優秀な脳が、自然に後に続く言葉を予測してくれるでしょう。
本当に騒音がある場所での言葉の聞き取り能力が向上するか?
トライしてみる価値はありそうです!
やってみたら、どうだったか教えてくださいね。
(2010.12.03)