さて、前回に登場した“毛”です。
基底膜の上には、外有毛(がいゆうもう)細胞と内有毛(ないゆうもう)細胞と呼ばれる、2種類の“毛”が生えた細胞が並んでいるというお話をしました。
さらに、この“毛”の上には蓋膜(がいまく)と呼ばれる蓋(フタ)がかぶさっていて、これらでできた構造体は「コルチ器」と呼ばれています。
蝸牛の中のリンパ液が、耳に入った音に応じて揺らされます。
すると、その揺れに応じて基底膜がウネウネと変形しますね。
さて、そうすると?
基底膜の上にある「毛」たちはどうなるでしょう???
基底膜の変形で上に持ち上げられると、当然、蓋(蓋膜)にぶつかります。
ぶつかれば、“毛”は「曲り」ます。
下がると元に戻って~~、上がるとまた~~~、ぶつかって曲がります!
皆さん、頭に生えている髪の毛を、いきなり引っ張られたり、押さえつけられたりしたら、どう思います?
「え!?」ってびっくりして、それから「ムカ!」っとくるでしょう?
有毛細胞も同じなんですよ。
この有毛細胞というやつは、頭にくっついている毛が曲げられると「え!?ムカ!」と来る代わりに「電気」を流すんです。
正確に言うと「神経の活動電位」を発生させるのです。
有毛細胞には、聴神経が接続されています。
聴神経は繊維状になっていて、人間では片耳に約3万本あります。
活動電位は、この神経線維の中を走って行くのです。
さあ、おさらいです!
耳に入ってきた音に応じて蝸牛の中のリンパ液が揺らされて、そのリンパ液の揺れに応じて基底膜がウネウネと変形します。
このウネウネの場所が、耳に入って来た音の周波数に応じて変わる・・・
周波数が高い時は手前側で大きくウネり、低い時は奥側で大きくウネるわけです。
そして、ウネって上に持ち上げられた有毛細胞に生えた毛は、蓋膜にぶつかって曲がります。
この電気は、その有毛細胞に接続された聴神経の線維に流れます。
つまり、入って来た音の周波数に対応した聴神経の線維にだけ、電気が流れるのです。
こうやって、有毛細胞で発生した電気は、「高い周波数の音」「低い周波数の音」と言った、今耳に入ってきた音の情報を、人間の脳幹から大脳へと伝えるのです。
人間の脳は、今入って来た音が、どんな周波数でできた音なのかを、聴神経からの情報を基に瞬時に判断し、そこから言葉の情報を認識したり、危険を察知したりしているのです。
物を見る「目・視覚」のメカニズムは、ほとんどの方が、何と無くおぼろげにでも知っているものですが、音を聞くメカニズムを知っている人は、ほとんどいません。
多くの方から、この「人が音を聞くメカニズムシリーズ」に対して、ご質問やご意見を頂きましたが、やはり大部分の方は、このシリーズを読むまでは「鼓膜が揺れる」くらいの知識しか無かったようです。
不思議ですね。
目と耳は、人間にとって同じくらい大切な器官なのに。
現代社会は、おおよそ視覚優先に形作られています。
テレビやゲームなどのメディアでは、視覚に訴える画像技術ばかり進化しています。
目に見えないものは、何と無く注目されにくいんですね。
さらに、この複雑な構造!
知らない人が多いのも、無理はないのかもしれません。
さて、次回からは「音を聞く」、その「音」の中で最も重要な「人の声・音声」についてお話して行きたいと思います。
お楽しみに!
(2007.08.29)