「人間にとって、最も重要な感覚は?」
やはり、大部分の方が視覚と答えるでしょう。
確かに、我々が周囲の状況を把握するためには、視覚からの情報がとても重要です。目が見えなければ、おちおちと道も歩けませんから。特に現代社会は、とっても視覚優先に出来ています。テレビやパソコン、ゲームなどの各種メディアや、駅や空港の案内表示など、視覚からの情報ばかりです。
しかし、人間が視覚から得ている(得られる)情報というのは、実はそんなに多くはないというのも、また事実なのです。考えてみましょう。視覚というのは、今、目を向けている方向にある情報しか得る事が出来ません。視野の外、例えば自分の横や後ろで何が起きているのかを、視覚だけで知ることは出来ません。さらに、目を閉じてしまえば、情報はほぼゼロになってしまいます。現代社会は、たいした情報を得ることが出来ない視覚という感覚に、無理やり過多な情報を押し込んでいるとも言えるのです。ストレスが溜まるわけですね。
聴覚は、基本的には全ての方向からの情報を、しかも24時間、監視しています。眠っている時も、何か物音がすれば、目を覚まして、その音の方向を見ますよね?(私は、ちょっとやそっとの音では目を覚まさないって?それは別の問題です。仕事と酒の量を少し減らしましょう。)聴覚は眠らない、そして常に全方位をカバーしている、とても優れた不眠不休の感覚なのです。
もう一つ、嗅覚も、常に全方位をカバーしている不眠不休の感覚です。一説によると、人間が毎日経験する全ての感情の75%は“におい”がもたらしているという調査結果があるそうです。良い香りに包まれていれば、無意識に良い気分になり、嫌なにおいの中にいれば不機嫌になる。嗅覚というセンサーが、実は皆さんの感情を強くコントロールしているのです。
話を聴覚に戻します。何かの事故で、自分の後ろで“ドーン”という大爆発が起きたとしましょう。反射的に頭を隠したり、身をよけたりしながら、音の方向を見ませんか?聴覚は、瞬時に危険を察知し、しかも危険のある方向をも検知する、高速で高性能な方向センサーでもあるのです。
音が全く聞こえない場合を想像してみましょう。後ろどころか、目の前で爆発が起きたとしても、それを認識し、状況を理解し、逃げる体勢に入るまでに、いったい何秒かかるでしょうか?爆発によって発生するにおいを感じて、そこに危険があると察知するまでには、数秒から、ひょっとしたら数分かかってしまうかもしれません。
そう、聴覚とは、不眠不休で働き、しかも、いざと言う時には、目を見張るようなスピードで我々を助けてくれる、韋駄天で、とっても働き者の、本当に頼りになる奴なのです。
(2006.06.01)